- ( ^ω^)感傷のようです
- 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 00:31:13.02 ID:p7WAavYE0
- 地下鉄の、
夜の底みたいなガラス窓に自分の顔が映っている。
疲れてもいないが力強くもない顔、
東京の冬の寒さに飽き、
パーティの招待状を待ちくたびれた顔がそこにある。
朝の光のなかでもそう感じ、
そしていまもその皮膚に残る痩せた欲望の痕跡に眼をそむけたくなる顔がそこにある。
あの日、
夜遅く依頼人は帰っていった。
俺は彼女に結婚しているのかと尋ねた。
いまは一人だと彼女は答えた。
それからこうつけ加えた。
伊藤久仁子というのは本名で、
井藤は結婚していた当時の姓だが、
「芸名」としてもそのまま使っている。
久仁子を久仁江に変えたのは単なるセンチメンタリズムのせいだ。
- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 00:32:01.02 ID:p7WAavYE0
- 俺はいった。
いまどきこの程度のヌード写真など、
誇りにもならないが恥というほどのことはなかろう。
亭主に知られるのを恐れるということならわからないでもないが、
あなたの場合ほうっておいても害はあるまい。
彼女は答えた。
自分はテレビ局の局員なのだ。
一人の離婚した女であり、
一人の会社員でしかない。
女優ではないし女優になる気もない。
つまり、
スキャンダルで筋肉を鍛える、
などというやりかたとはまるで無縁なのだ。
ひっそりと、
しかし適度に贅沢に生きていければそれで構わない。
そのためにはこの問題を解決したいし、
誰にも知られたくない。
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 00:32:44.63 ID:p7WAavYE0
- 俺はいった。
( ^ω^)「電話帳を広げてダーツの矢を投げたんですかお?」
井藤久仁江はわずかに眼を細めた。
( ^ω^)「私を選んだ理由ですお。
場末の売れない探偵なら、
あんな番組には興味がないと思ったんでしょうお。
だから自分のことは知られていないと。
残念だけど、それは的外れでしたお。
まず、僕は天気予報には多大な関心があるんですお。
とりわけ、外国のね。
昔、何年もお昼を抜いて、運送屋のアルバイトをやって、
ついでにカツアゲまでやって貯めたお金でパッケージ・ツアーに参加したんですお。
そのとき見ず知らずのおばさまやおねえさま達と訪れた街を懐かしむという悪い趣味があるお。
次に、あなたは仲間内ではかなり人気だったんですお。
むろん、街の底のほうの業界の仲間内、という意味ですがお。
あなたの番組が終わったときは、イキなおにいさん達が集まって残念会を催したくらいでお。
東京のそこここでひっそりと。
誰にも知られず顔を寄せ合って。
あなたの喋り方はどこかエロチックなんですお。
あんな女を抱いてみたい、性的な暴虐を加えてみたい、
というのが、口には出さないが、私達の心からの希望でしたお」
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 00:34:33.11 ID:p7WAavYE0
- 井藤久仁江は爪を噛んだ。
唇と爪の赤が歯の白さでさらに際立った。
それから、いった。
('、`*川「それ、脅迫?」
( ^ω^)「とんでもない。
ただ過去を俗な歴史読物のように語ってみただけですお。
憧れの対象に出会う機会は年ごとに減りますお。
だから、たまたまそんな事に出くわすと、つい口が軽くなるんですお。
もし依頼を取り下げたいというなら、そうおっしゃってくださいお。
私はきれいさっぱり忘れますお。
いやな人間ですが一つだけ誇れることがありますお」
「なに?」と彼女は視線の動きで尋ねた。
( ^ω^)「約束を尊重することですお。
ときには愚直なまでに」
また長い時間彼女は沈黙した。
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 00:35:52.42 ID:p7WAavYE0
- 階下のビリヤードの音が乾いた空気を伝いのぼってきた。
奴はもうナイン・ボールの一人ゲームを十回かそこら消化しただろう。
やがて、彼女がおごそかにいった。
('、`*川「やはり、お願いするわ」
すでに足の速い黄昏が窓辺に忍び寄っていた。
空は見えないくせに時間の経過には敏感に反応するのだ、
俺の部屋の小さな窓は。
俺達はさらに酒を飲んだ。
あれやこれや、
記すに足りない話題が途切れがちに続き、
ついに本格的な沈黙と酔いが同時に訪れたとき、
俺達は寝室に移った。
そこでも、
あれやこれや、
記すに足りない行為が繰り広げられた。
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 00:36:50.86 ID:p7WAavYE0
- 俺は彼女の脚に頬ずりした。
ブードゥー教徒が聖なる儀式に興奮しているような感じだっただろう。
彼女も適度に燃えあがったが、
時々は天井の染みの数を数えているように見える瞬間があった。
そのたびに俺はあのインスタント写真を思い出した。
俺は写真を恨み、
それを撮った男に嫉妬した。
眼覚めると朝の光が部屋にあふれていた。
彼女の姿はなかった。
彼女の代わりにしわだらけのシーツが残され、
俺の、名前のないネコがテレビのうえにいた。
夜中、
俺が眠りこけてからドアを引っ掻いたネコを井藤久仁江が部屋に入れてやったのだろう。
相変わらずガンジスの悠久の流れを見つめる聖者のようだった。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 00:39:34.54 ID:p7WAavYE0
- ベッドの脇のテーブルに青いプラスチックの平べったい容器が置き忘れてあった。
蓋を開くと、
鏡のなかに二日酔いの男の顔が映し出された。
出掛けるときに何気なくコンパクトをポケットに入れた。
六本木駅の階段を登りながら触れてみると、
それはまだそこにあった。
つい昨日の事なのに、
もう様々な思いがこびりつき、
結晶化したように、
コンパクトはずっしりと重かった。
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 00:41:01.14 ID:p7WAavYE0
- ―――――――――
爪'ー`)「どなたですか?」
と店の男はいった。
フランスの肉屋風の大きな灰色の前掛けをつけている。
店の天井には冗談みたいな太い換気ダクトが、
何本も通っている。
( ^ω^)「友達だお。古い友達」
口髭をきれいに切りそろえ、
若いくせにいやに老成した顔の男は、
カウンター越しに写真を戻してよこしながら、
いった。
爪'ー`)「いいえ、お客さんのことですよ」
( ^ω^)「俺?」
爪'ー`)「ええ、お客さん」
( ^ω^)「俺はそいつの友達だお。古い友達」
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 00:41:55.98 ID:p7WAavYE0
- 久仁江から預かった一枚の写真の複写を半分に切り、
さらに三分の一に切った。
そうすると男の顔だけが残った。
台紙に張り付けてみると、
なんとなく頼りない。
中米の小国のゲリラの死亡広告の複製を思い出させた。
爪'ー`)「どんなお友達ですか」
と若い男はいった。
蝶ネクタイが板につくタイプを俺は信用しないことにしている。
やけに広いテーブルを据えて、
意味ありげな版画を壁に飾ったバーもだ。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 00:43:27.47 ID:p7WAavYE0
- ( ^ω^)「この男を知ってるのかお」
爪'ー`)「知りません」
( ^ω^)「じゃ、いいお」
爪'ー`)「なにか思い出すかも知れません」
( ^ω^)「知らないことも思い出せるのかお」
爪'ー`)「時には」
( ^ω^)「じゃ教えてやるお。そいつは高校の同級生だお。
そこで俺が図書委員、
奴が風紀委員をやってた……聞いてるかお?」
爪'ー`)「聞いてますよ」
( ^ω^)「ある日、俺は図書購入費の予算を誤魔化してコカ・コーラを三ダース買ったお。
小遣いで時々買っているうちに中毒になって、
そいつがバレてお。俺は退学を覚悟したが、
奴が罪を被ってくれたうえ、
家からセザンヌを持ち出して弁償までしてくれたんだお。
それから幾十の冬が過ぎ夏も過ぎ記念写真の色も褪せたが、
受けた恩は忘れないお。
ようやく郵便定期の満期がきたんでまとめて金を返してやろうと、
こう考えて出張ってきたわけだお。
で、奴のヤサはどこだお」
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 00:44:28.34 ID:p7WAavYE0
- 腕組をし、
にやにや笑いながら俺の話を聞いていた若い男は首を振った。
爪'ー`)「知りません」
( ^ω^)「そいつは残念だお。
ところでここには時々来るのかお」
爪'ー`)「来ません」
俺は、
あの円卓の騎士のテーブルの席に座ってもいいかと彼に尋ねた。
奴は肩をすくめて、
どうぞ、といった。
肩をすくめる仕草とチクワが俺は大嫌いなので、
一瞬右手が前に出かかったが、
際どく抑え込んだ。
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 00:46:08.89 ID:p7WAavYE0
- 俺は一人でテーブルについた。
テーブルのベンチも墓石みたいに冷たかった。
こんな、
寒々しい場所で人は恋を語れるのだろうかと疑った。
だが考えてみれば、
俺の部屋の寒さもここと負けず劣らずだ。
それでも俺は恋に似たものを味わうこともできるし、
劣情というやつとも親しくなれる。
場所など誰も問わないのだ。
ただ相手を問うだけだ。
二時間も同じ姿勢をとっていた。
その間にポーランドのウオトカのソーダ割りを五杯お代わりした。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 00:47:00.99 ID:p7WAavYE0
- ( ・∀・)
(゚A゚* )
川*゚ー゚)
一人分のスペースをおいた隣の、
男一人と女二人の客は年末のパーティの相談をしていた。
三人とも三十そこそこの年ごろに見えた。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 00:48:20.07 ID:p7WAavYE0
- 男が埠頭の倉庫を借りようと提案し、
女二人が賛同した。
川*゚ー゚)「いっそ民族衣装でやったらどうかな」
と顔立ちの整ったほうの女が叫んだ。
(゚A゚* )「いいな」
と二段ほど落ちるもう一人がいった。
(゚A゚* )「あたしはブルガリアのドレスにしよう」
男は、
( ・∀・)「それじゃあ僕はメキシコで買ったポンチョで決めようか」
と陰気な声で呟いた。
川*゚ー゚)「そうね、じゃあたしはチマ・チョゴリ。
華やかな処女用のがあるのよ。
一度着てみたくって」
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 00:49:05.15 ID:p7WAavYE0
- ( ・∀・)「葉っぱはないかな」
(゚A゚* )「あるわよ」
とブルガリアの女がいった。
(゚A゚* )「でもたくさんはないから、
モデルをしているアメリカ人に頼んでみるわ」
( ・∀・)「この店でも、
バーテンの狐原さんに頼めば、
もっとずっといいものが手に入るぜ」
(゚A゚* )「駄目よ、あの人あんまり信用できないわ。
それに、ここんところしばらく品物が入ってないみたいよ。
先週、うちに出入りしているヘアーメイクの子が断られたっていってたもの」
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 00:51:53.60 ID:p7WAavYE0
- 川;゚ー゚)「ちょっと」
とチマ・チョゴリ志願がいった。
川;゚ー゚)「あなたたち声が大きすぎやしない?
身内ばかりじゃないのよ。
桜印とか菱形印とか怖い人が聞いてたらどうするの。
慎みなさいよ」
チマ・チョゴリの女は、
隣にべったりと座っていたブルガリアの女の肩に手を置き、
それからゆっくり首をめぐらせた。
哨戒運動が終わりかけた頃、
俺の視線と彼女の視線が交錯した。
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 00:55:37.89 ID:p7WAavYE0
- 彼女は、
そこだけ紫色に染めた前髪の先を指先でもてあそびながら、
いたずらっぽく笑った。
そして、
川*゚ー゚)「聞こえていたらごめんなさいね」
といった。
俺は、
( ^ω^)「全然聞こえなかったお」
と答えた。
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 00:57:06.39 ID:p7WAavYE0
- 向かいの席、といっても、
航空母艦に仕立て上げたいほど広いテーブル越しだから、
海峡の彼方ほどには遠いのだが、
そこにはアメリカ製のビールを缶のまま飲んでいる男女のカップルがいて、
彼らの会話も途切れ途切れに耳に入った。
( `ハ´)
男は若いくせにヒトラーの弟分みたいに髭を鼻の下にたくわえ、
それが浅黒い肌に奇妙に似合っていた。
ミ*゚∀゚彡
女は戦争直後の小学生そっくりに髪を刈り上げ、
頭頂のあたりは静電気を起こしたのか天に向かって逆立っていた。
彼らは、
真冬に南の島へ波乗り行く相談をしていた。
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:00:44.72 ID:p7WAavYE0
- 爪'ー`)】
カウンターの奥にいるバーテンの狐原は、
五回電話を受け取り、二回電話した。
しかし、
話の内容はわからなかった。
俺の捜している男は閉店まで、
ついに店のガラスの扉を押さなかった。
俺は、
最終回の上映の終わった映画館を出るみたいな気分で、
店を出た。
家へ帰るのもいやだし、
かといって、
そのまま座っているわけにもいかない。
現実からもう少しの時間、
逃避していたいのに許してもらえない。
できれば白いスクリーンの裏側に回り込み、
無駄とは知ってはいるが、
幻想の破片を拾い集めてみたい。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:03:17.49 ID:p7WAavYE0
- 表へ出ると同時に、
店の看板の明かりが消えた。
バール・デ・ニューソクというやったらしいアルファベットの店の名前が、
冷え切った十二月の闇に溶けた。
六本木でも大通りから少し引っ込んだ露地は、
人通りも少なく、店の明かりも暗い。
できる限り看板を小さくしようという運動が流行しているらしい。
俺はリスボンの塩辛い川風と暗い夜を思い出した。
人がなし崩しに死ぬ街、
ここもいずれはそうなるだろう。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:05:29.16 ID:p7WAavYE0
- 一台のヨーロッパ車が店の脇に停まっていた。
この店に入ったときには確かにいなかった。
エンジンをかけっ放しにしてヒーターをきかせている車のなかに、
誰かが乗っているのが見えた。
煙草の火が一度、
闇のなかで強く輝いた。
表通りへ出てタクシーを拾おうと思ったが、
気を変えた。
逆の方向へ向けて歩き出した。
最初はゆっくり、
やがて少しずつ歩調を速めた。
二十メートルかそこら歩くうちはなにも起こらなかった。
思いすごしだろうか。
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:07:03.15 ID:p7WAavYE0
- さらに十メートルほど歩いたとき、
背後の車のエンジン音が急に高くなった。
表通りのほうへ鼻面を向けて駐車していた車が、
かなり荒っぽいやりかたで転回しようと試みているのだが、
道路の幅が十分ではない。
自転車をなぎ倒した。
一台こつんとバンパーが当たっただけだったのに、
あまりのも適切な間隔で並べてあったために、
絵に描いたように見事な将棋倒しが起こった。
凍りかけた空気を金属のぶつかりあう音が覚醒させた。
車は、巻き起こした波乱を処理することなくギアを入れ換え、
そのまま走り始めた。
自転車よりも俺に興味があるらしい。
第一、この道は逆方向への一方通行なのだ。
次の瞬間、
車のヘッドライトのスイッチを入れた。
ハロゲンライトが俺の眼を射抜き、
辺りは不吉なほどに明るくなった。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:07:47.63 ID:p7WAavYE0
- 俺はしばらく走ってみることに決めた。
道路は車幅のほとんどいっぱいしかないので、
体を隠すとしたら電柱の陰だが、
そこでは車のドアを勢いよく開くだけで腹を打たれそうだった。
なんとか新しい展望が開けるまで走り続けることにしたが、
適当な避難場所を見つけられないでいるうちに息が切れ始めた。
走りながら煙草をやめるべきだと考えた。
どんなに貧乏しようと、
名探偵の評判を維持したいと志すならスポーツクラブくらいには入会しておいたほうがいい。
腹をつまんでフレンチトースト二枚、
いや三枚分も指の間に残るようではいけない。
規則正しい生活と向上心が明日はのささやかな希望を生むのだし、
健全な肉体こそ不健全な精神を飼いならすことができるのだ。
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:10:09.38 ID:p7WAavYE0
- 息が上がるまでの短い疾走の間にそんなことを考えていた。
左手に小さな工事現場が見えた。
コンクリートの立方体を独房よりも小さく区切ってトランク一杯の札束と交換するつもりの、
小さな、作りかけのアパートだった。
俺はその場所を新しい展望にすることにした。
勢いをつけてジャンプした。
情けない。
飛び越えるつもりの、
黄色と黒の車停めに足を引っ掛けてしまった。
前にのめって、
腹と顔から落ちた。
口のなかで血と砂の味がした。
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:12:30.76 ID:p7WAavYE0
- 老婆の悲鳴みたいなブレーキ音がした。
完全に停止するよりも早くドアが開いて人影が飛び出してきた。
動けなかった。
息も上がっていたし、
血と砂の味は全くお呼びじゃないという感じだったが、
軽く飛び越えるつもりの車停めをつま先に引っ掛け、
今頃は地面からコンクリートの塊を拾い上げて戦闘的な雄叫びをあげている、
という予定が根底から覆された心理的ショックのほうが大きかった。
この奈落から再び這い上がるにはどうしたらいいだろう、
と妙なことを危機に瀕しつつ考えた。
菜食主義か。
毎日二時間の水泳か。
都立中央図書館のカードか。
あるいはその全部か。
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:13:49.80 ID:p7WAavYE0
- 結論は見つけられないでいるうちに砂利も踏みしだく音がし、
脇腹に鋭い痛みがきた。
この男、
遠慮ってやつを知らない。
暴力に美しさがない。
節度もない。
体を丸くして次の打撃に備えたが、
攻撃は予想しないところへやってきた。
後頭部が強打された。
夜は暗かったが、
それよりも眼の裏側のほうがもっと暗くなった。
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:15:52.64 ID:p7WAavYE0
- 俺はためらいがちに眼を開いてみた。
すぐそばに誰かの足先が見えた。
スニーカーだ。
遠くから近づく跫音が聞こえた。
スニーカーは跫音を抑えるように歩き去り、
俺の小さな視界から消えた。
横臥したままで「七かける七」と心のなかで設問してみた。
「四十九」という答えがすぐに見つかった。
大丈夫だ。
頭の内部は壊れていない。
肋骨が折れているかどうかは、
動いてみなくてはわからない。
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:17:59.82 ID:p7WAavYE0
- 「しょうがないだろう」
という声が聞こえた。
声は若い。
スニーカーのようだ。
「だって、反対側へ行くんだから、こいつ。
あせっちまったよ」
「こいつはやりすぎだ」
この声には聞き覚えがあった。
さっきのバー、
ニューソクのカウンターの向こう側から聞こえていた声だ。
名前を狐原といういけすかない野郎だ。
「どこ帰るかだけ調べてくれといったじゃないか。
こんなことをして、もしタカラのとこの奴だったらどうするんだ」
「そいつは心配ないよ」
別の声がいった。
「財布を調べてみたんだ。
探偵らしいぜ。単なる民間の探偵」
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:20:08.01 ID:p7WAavYE0
- 俺はそっと片方の靴を脱いだ。
それから靴下も片方だけ脱いだ。
手を伸ばして靴下を拾いあげるときに激痛が体を貫いたが、
なんとか声を抑え込んだ。
「タカラの連中は探偵など使わねえだろ?」
スニーカーの声がいった。
「俺はこの男の素性を調べて」
とバーテンがいった。
「鬱田さんに恩を売りたかっただけなんだ。
殴れなんていわなかったぜ」
「殴ったわけじゃない。
蹴り飛ばしただけだ。
もっともこいつがほとんど一人でのびちゃったんだけどな」
悔しいがその通りだ。
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:23:11.24 ID:p7WAavYE0
- 俺は小石を一つずつ拾い、
音をさせないように気遣いながら、
靴下の中へ詰め込んだ。
できるだけ小ぶりのがいい。
「鬱田さんに頼んでくれないか」
とスニーカーがいった。
「少し品物をまわしてくれって。
年末、パーティづいてるだろ、だからさ」
「連絡先がわからないんだよ。
自分のほうからしか連絡してこない」
とバーテンが答えた。
「俺も会いたいのは山々なんだけどな」
「どうしようか、このデブ探偵」
とスニーカーがいった。
俺は身を固くして凍りかけた地面に口づけした。
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:25:13.01 ID:p7WAavYE0
- バーテンが答えた。
「こいつ、お前の顔も見てないんだろ?」
「ああ、そんな暇ないよ。
自分でダイビングして、すぐにノビちまったんだ。
商売換えしたほうがいいよ」
「放っておこう」
「な、例の件さ、鬱田さんに頼んどいてくれよ。
あれ無しじゃまずいんだ」
「懲りないな、お前。
この間バッドトリップやって五階のベランダからぶらさがりかけたって聞いたけど」
「あの時はあの時さ。
俺の創造活動にはあれが必要なんだ」
とスニーカーがいった。
「ところで狐原よ、お前女と切れたのか?」
「誰がそんなこといった」
とバーテンがすごんだ。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:27:09.06 ID:p7WAavYE0
- 「最近来ないらしいじゃないの、店に」
「関係ねえよ。
女で身を持ち崩すほどできた人間じゃないよ、俺は」
口調が少し暗かった。
「とにかく鬱田の一件、頼んだぜ」
スニーカーの声をしおに、
二人が歩きだす気配がした。
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:28:31.44 ID:p7WAavYE0
- 俺は立ち上がった。
よいしょ、
と掛け声をかけざる得なかった。
二人の足が止まった。
( ^ω^)「寒いお、やっぱり。
肺炎になるかと思ったお」
俺はゆっくり近づいた。
片方は裸足だし、
脇腹の痛みもおさまってなかったので、
早くは歩けない。
回復が苛立たしいほどのろい。
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:30:25.86 ID:p7WAavYE0
- 爪'ー`)
('e')
二人とも、
遅れた友達がやってくるのを待っていたみたいな平和な顔をしている。
腕の届く範囲へ近づくまで、
俺はにやにや笑い続けていた。
彼らから一メートルほどのところで笑いを中断し、
右手にぶらさげていた小石入りの靴下を思い切り振った。
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:31:34.83 ID:p7WAavYE0
- (#^ω^)つ=○)e゜)・:'.
最初の一撃がスニーカーの側頭部を小気味よくとらえた。
・:'. 爪゜Д(○=⊂(^ω^#)
逆のモーションから払った次の攻撃がバーテンの狐原の顔面にはまり込んだ。
あまり見事に決まったので、
俺は喜びを隠せなかった。
もうその必要もないのに、
顔がゆるんだ。
即製のブラックジャックの実用新案登録を申し込んだら認可になるだろうか。
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:33:02.06 ID:p7WAavYE0
-
(^ω^#)
爪;Д((☆ミ⊃
倒れた狐原の腹のうえに跨り、
平手で二発、
続けざまに頬を張った。
狐腹は薄眼を開けた。
( ^ω^)「反省しろお」
(^ω^#)
爪;Д(☆ミ⊃
といいながらもう一発張った。
彼は段ボール箱から出された仔ネコみたいな顔をした。
自分が現在どんな境遇にあるのか全然理解できていないのだ。
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:34:46.16 ID:p7WAavYE0
- ( ^ω^)「鬱田はなにを扱ってるお」
爪;ー(#) 「なんのこと……ですか」
( ^ω^)「LSDかお?」
バーテンは、答えなかった。
スノビッシュな背景ではどうにか見られても、
闇の中の不自然な環境で眺めてみると、
細長い顔にはどこかしら凶悪な陰りがあった。
不快感をいっぱいにあらわした切れ長の眼は、
アラビア人が月光にかざして自慢するナイフみたいだった。
しかし、
そのナイフは残念ながら少々錆が浮いている。
暗い情熱を持て余した女ならこんな男にも魅かれ、
一度や二度はベッドをともにしたいと思うかもしれない。
しかし、男は違う。
嗅覚の鋭い男は、
こんな男を信用するくらいなら路傍のネコのほうがまだ頼りになると考えるだろう。
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:36:43.53 ID:p7WAavYE0
- 俺はもう一度繰り返した。
( ^ω^)「LSDかお?」
彼はあいまいにうなずいた。
屈辱と苦痛とで表情を醜く歪めたままだ。
( ^ω^)「なぜ俺を襲ったお」
爪;ー(#) 「ただ尾けてくれといっただけだ。
襲うつもりはなかった。
逃げたから追ったんだし、
倒れたのはそっちの勝手だろ」
俺はなにもいわなかった。
爪;ー(#) 「こっちも鬱田を探している。
だから、そっちの動きを見てりゃ……」
( ^ω^)「奴が捕まると思ったのかお」
爪;ー(#) 「そうだよ、もう放してくれよ」
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:44:45.62 ID:p7WAavYE0
- 彼の胸のうえから立ち上がり、
自分の財布を拾い上げた。
地面に寝転んだままの二人も、
もぞもぞと体を動かしながら、
散らばった正気を拾い集めようとしていた。
俺は、
洋服のクリーニング代のことを思い出したので、
二人の脇腹を一回ずつ蹴り飛ばしてやった。
スニーカーを履いた男が仔イヌそっくりに、
(#)e;)「キャン!」
と鳴いた。
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:45:57.21 ID:p7WAavYE0
-
―――――――――
青山通りに面したその喫茶店の、
窓際の一番明るい席に、
すでに盛岡は座っていた。
( ^ω^)「見えませんお」
と席につくなり俺はいった。
(´・_ゝ・`)「なにがだよ」
( ^ω^)「やばい商売の現役にはとても見えない」
といいかけると盛岡は訂正した。
(´・_ゝ・`)「緊張感あふれる職業といってくれ」
( ^ω^)「失礼。この人は財閥系商社の部長です、
といわれても信じますお、私」
(´・_ゝ・`)「そうかね」
盛岡は満更でもなさそうに、
にやにや笑った。
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:48:51.66 ID:p7WAavYE0
- (´・_ゝ・`)「まだ部長止まりかよ。
常務クラスには見えんかな。
三井とか三菱とかの航空機担当常務」
俺は彼の隣りにおかれたボール箱を指した。
( ^ω^)「平日に道楽道具を持ってなけりゃお」
(´・_ゝ・`)「すごい出ものだぜ。
ベルギー製なんだがね、
なんと阿里山鉄道のセットだぜ。
実によくできてる」
( ^ω^)「惜しいお」
(´・_ゝ・`)「なにがだ」
( ^ω^)「芝居心さえあれば、
文学座に入っても十分主役を張れると思いますお。
ヤクザ以外の役ならお」
盛岡は鼻の先で笑った。
(´・_ゝ・`)「瀬川のお春さんと俺はあわないよ。
リアリズムは好きだけどな」
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:50:06.04 ID:p7WAavYE0
- 盛岡とは古いなじみだ。
彼がまだ大商社の部長には見えない頃、
より多く緊張感あふれる業界の産業戦士に見えたころ、
俺達は初めて会った。
奴はラテン・アメリカ文学の知識で俺を油断させたあと、
完全に合理的な暴力で俺を屈服させた。
その後は時々会い、
この塩っ辛い世界でフリーランサーが生きていくための基本的姿勢と、
技術上の問題をアドバイスしてくれる。
盛岡は、
ピストルの弾の破壊力と、
フラワーノートの香水の製造法と、
遺伝子の組換えの話題を、
まったく同じ口調で話すことのできる数少ない男だ。
今は渋谷で、
いくつもの店と会社を切り回している。
もっとも全部が全部合法的な仕事をしているというわけではない。
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:52:25.67 ID:p7WAavYE0
- 盛岡はコーヒーカップを置いた。
それから襟の端を両手の指先でさっとこすりおろした。
(´・_ゝ・`)「演劇論を戦わすために俺達は会っているわけじゃないよな」
と盛岡は渋い声でいった。
俺はポケットから写真を取り出した。
そして裏返したまま、
盛岡のほうへ滑らせた。
鬱田という男の顔だけを切り取ったものではなく、
オリジナルだ。
鬱田と井藤久仁江が、
旅立ちの前のオルフェウスとユーリディスのように黄泉の薄明を眺めている写真だ。
情報を採集するだけではなく、
盛岡の感想を聞きたいと俺は思った。
とりわけ彼女の裸体に関するそれを。
- 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:53:47.40 ID:p7WAavYE0
- 盛岡は、
しばらく写真を見つめ、
裏返して俺に戻してよこした。
(´・_ゝ・`)「いいじゃないか」
( ^ω^)「いいでしょう」
と俺も同意した。
(´・_ゝ・`)「だが雰囲気が暗いな」
( ^ω^)「ええ」
(´・_ゝ・`)「これを見ても女とやる気にはならない。
ベッドの中でキルケゴールでも読もうかって気になる」
( ^ω^)「ええ」
(´・_ゝ・`)「つまり、
あんまり世の中のためにならない写真だ」
( ^ω^)「ええ」
(´・_ゝ・`)「で、俺になにを聞きたい」
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:54:41.72 ID:p7WAavYE0
- ボール箱を左手で撫でながら、
盛岡はそういった。
すぐにでも家へ帰り、
自閉的な私有鉄道のレールのうえに台湾の登山列車を乗せてみたいんだ。
急げ、
と彼の手は雄弁に語っていた。
( ^ω^)「この男、知っていますかお」
(´・_ゝ・`)「知っている。
確か鬱田毒夫とい名前だったか」
( ^ω^)「クスリを扱っているようですがお」
(´・_ゝ・`)「ああ、個人的なルートでアメリカからLSDを運んでいると聞いたことがある。
多分、エアメールの便せんに溶液をしみ込ませたりするやつだろう。
あれは粉である必要がないからな。
小さく千切って売り、買ったやつはそいつをペロペロ舐める。
すると、恐竜だの海蛇だのが見えてくる、俺には信じられない悪趣味さ」
( ^ω^)「盛岡さんのとこの息はかかっていないんですかお」
(´・_ゝ・`)「いや。奴は素人さ。
確か医学部崩れじゃなかったかな。
昔大学でよく燃えるカクテルの研究をしすぎてアメリカへ逃げたんだと聞いた。
あの頃は奴ら、俺達の業界よりも過激だったからな。
うちの社でスカウトしょうと思ったんだが、
ちょっと陰気だしな、それに――」
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:56:18.58 ID:p7WAavYE0
- ( ^ω^)「それに?」
(´・_ゝ・`)「それに、鬱田はここのところちょっと派手にやりすぎて斎藤組に睨まれてる。
うちじゃやらないがね、クスリは。
しかし斎藤んとこは景気が落ち目になって以来クスリがシノギのネタだからな。
今じゃ覚醒剤なんかより、大麻だのコカインだのエンジェル・ダストだの、
頭痛薬の詰め合わせセットみたいなやつのほうが受けるらしいぜ」
( ^ω^)「つまり、鬱田は盛岡さんとはなんの関係もないんですかお」
(´・_ゝ・`)「ない」
盛岡はきっぱりそういった。
( ^ω^)「住んでいるところは知っていますかお」
(´・_ゝ・`)「いや。しかし、俺んところの青年が江戸川橋の定食屋で見たといっていたな。
サバ焼き定食を陰々滅々と食っていたそうだ」
( ^ω^)「この写真の女のほうは見覚えないですかお?」
(´・_ゝ・`)「ない」
俺は浅く息をついた。
- 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 01:58:43.70 ID:p7WAavYE0
- (´・_ゝ・`)「ないがな……個人的な感想をいわせてもらえば」
と盛岡はいった。
すでにボール箱を左手が引き寄せていた。
(´・_ゝ・`)「個人的な感想をいわせてもらえば、
俺はその女は買わない」
盛岡は右手の人差指まだテーブルのうえの置かれたままの写真をあいまいに示しながら続けた。
(´・_ゝ・`)「その女はな、いうなれば、半分インテリで半分娼婦だ。
俺は思うね。
単なるインテリより始末におえないし、
単なる娼婦よりもずっと冷酷だ。
そのくせ肉欲は強く、
自分でもそいつをうまくコントロールできない。
そして、足を踏み外して穴に落ちる時は、誰でもいい、
たまたまそばにいた誰かの手を握って一緒に落ちる。
そういうタイプだ」
( ^ω^)「そういうもんですかお」
(´・_ゝ・`)「そういうもんだよ。
そういうもんだと俺は思うよ。
痩せているくせに出っ張るとこは出っ張ってる。
思いのほかに毛が濃くて広い。
髪の生え際がはっきりせず、
煙ったみたいになってる。
全体の雰囲気がなんとなく中欧的で憂鬱だ」
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 02:00:32.03 ID:p7WAavYE0
- ( ^ω^)「細かいですお」
(´・_ゝ・`)「経験は知恵の母だ」
( ^ω^)「悪意に勝る杖はなし、ともいいますお」
(´・_ゝ・`)「どこのことわざだ?」
( ^ω^)「日本ですお。
湘南の葉山あたりでそう叫んでいる奴がいましたお。
最近子供の教育を考えて鎌倉へ越したようですがお」
(´・_ゝ・`)「悪意に満ちた野郎だな」
( ^ω^)「まったく」
(´・_ゝ・`)「とにかく、俺だったらこんな女には手を出さない」
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 02:01:48.47 ID:p7WAavYE0
- 盛岡は立ち上がった。
そして、いった。
(´・_ゝ・`)「鬱田だがな、映画館でよく会うぜ。
古典的な映画が好きらしくてな、
俺とは趣味があう。
しかし、趣味があっても世界観が違うというのは世の中によくあることでさ」
またにやりと笑った。
(´・_ゝ・`)「ところで情報提供の代償として、
なにか考えてくれてるんだろうな」
俺はうなずいた。
( ^ω^)「今度、シンガポール発バタワース行国際特急の模型をプレゼントしますお」
(´・_ゝ・`)「お、ラキャット・エクスプレスか。
こたえられねえな」
( ^ω^)「でも、客車一輌分だけですお」
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 02:03:15.07 ID:p7WAavYE0
- (´・_ゝ・`)「しょうがねえブタだよ、お前は」
と彼はいい、
去りかけて振り返り、
こう俺に尋ねた。
(´・_ゝ・`)「ところでこれはなんの調査なんだ。
忙しい身だから短くいえよ」
俺は、
瞬きを二つする時間だけ考えた。
そして、いった。
( ^ω^)「――なんてことはない。
ただの人探しですお。
それだけ、ただそれだけですお」
盛岡は笑いもせず、
ケッと息を吐きだした。
それから喫茶店のドアを開け、
明るい冬の空気の中に溶け込み、
消えた。
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/21(月) 02:08:17.73 ID:p7WAavYE0
-
続く