('A`)は野球選手のようです

1 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/05/03(月) 20:19:49.38 ID:FzwtV5eJ0
【まとめ】
・ブーン速。
http://hoku6363.fool.jp/yakilyu-doku2/00.php
・ブーン文丸新聞(半休止)
http://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/baseball2/baseball2.htm

いつもありがとうございます。
前回はすいませんでした。

2 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 20:21:24.78 ID:FzwtV5eJ0
【人物紹介】

('A`)  毒田 剛  26歳 二塁手
高卒ドラフト1位

ニュー速ヴィッパーズ所属の二塁手。
爆笑な守備が持ち味のそろそろ中堅選手。
そのような年齢にも関わらず、打撃不振に喘ぎ現在2軍の帝王。
前回にオールスターファン投票で2位に399,980,000票差をつけトップに。
打点5という輝かしすぎる成績でオールスター出場を決めた。
顔面はブサイク。プロ入り時童貞であり、当時の監督に風俗代として10万貰った。


( ^ω^)  内藤 地平線  26歳 投手
高卒ドラフト3位

ニュー速ヴィッパーズ所属の投手。
150Km超の直球と縦に大きく割れるカーブが武器のそろそろ中堅選手。
プロ入り時は超高校級の即戦力と評されたが、モノになってきたのはプロ入りから7年たった後。
現在では先発ローテーションの一角として活躍している。
高校時代から付き合っている彼女がおり、2ケタ勝利を挙げた暁にはプロポーズしようと思っている。

3 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 20:26:16.73 ID:FzwtV5eJ0
(K‘ー`)  川島 慶三  25歳 遊撃手
高卒ドラフト5位

ニュー速ヴィッパーズ所属の遊撃手。
シュアなバッティングと思い切りのよい走塁でチームを牽引。
高い身体能力を活かすため外野手から遊撃手にコンバート。
毒田や内藤の後輩であり、特に内藤とは仲が良い。
今季絶不調の毒田に代わり1番に座る。


J( ゚_ゝ゚)し  アーロン・ガイエル  38歳 外野手
全米ドラフト21巡目

ニュー速ヴィッパーズ所属の外野手。
思い切り振りまわすパワーと空間を歪ませる魔空間で相手投手を圧倒する。
魔空間はストライクの球をボールにしたり、ホームランボールを押し戻したりする。
魔空間が味方にとっていい結果につながるかは発動しないとわからない。
とはいえヴィッパーズの人気外人選手であり、2011年までの複数年契約を手にした。


从 ゚∀从  高岡 理緋  30歳 投手
高卒ドラフト5位

ニュー速ヴィッパーズ所属の投手。
140km後半の速球・スライダー・フォークなどで凡打の山を築く本格派右腕。
過去にはその高い完成度の投球でシーズン20勝を挙げたこともある。
長きにわたりヴィッパーズの大黒柱を務めている。
渡辺とは小学校からの腐れ縁で、お互いがお互いをライバル視している。

6 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 20:30:12.85 ID:FzwtV5eJ0
( ゚∀゚)  長岡 譲治  25歳 遊撃手
大卒ドラフト1位

シベリアレールウェイズ所属の遊撃手。
高いバットコントロール技術を持ち、昨年は右打者歴代最高打率を打ちたてた。
守備も一級品、盗塁をはじめとする走塁技術も非のつけどころが無く、最高レベルの選手の一人。
毒田や内藤の高校の後輩だが、成績的な面で大きく差を空けられている。
とはいえ、2人のことを純粋に尊敬しており、顔も整っていてファンも多い。
そういった諸々の理由で嫉妬に狂った毒田から度々闇討ちを受けているがすべて撃退している。


从'ー'从  渡辺 稜  30歳 投手
大卒ドラフト4位

シベリアレールウェイズ所属の投手。
球速はいい時でも130Km前後、悪い時は120kmも怪しい。
しかし数多くの一級品の変化球、特にスローカーブを武器に毎年勝利を積み上げるエース。
狙ったところは外さないコントロールも併せ持ち、今一番安定している投手と評される。
高岡とは小学校からの腐れ縁で、お互いがお互いをライバル視している。


<(^o^)> ナンテコッタイ  小和田 仁志  33歳 外野手
高卒ドラフト4位

シベリアレールウェイズ所属の外野手。
打率・本塁打・足・守備・肩の野球選手の5ツールのみならず、おしゃれを加えた6TOOLSを持っている。
球界きってのスぺランカー体質であり、ケガをする。とにかくケガをする。
しかし新宿で黒人から『眠らなくても疲れない薬』を手に入れ永く眠っていた能力が覚醒。
ケガに滅法強くなり、シーズン40本塁打・100打点を達成し、一躍スターダムにのし上がる。
今のところ唯一の敵は薬物検査である。

8 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 20:34:08.19 ID:FzwtV5eJ0
にしこり  松井 秀喜  35歳 外野手
高卒ドラフト1位

東京ビックバンズ所属の外野手。
日本球界を代表する4番打者にしてAVマニア。
毒田・ガイエルとともに「AV三銃士」を結成し、日夜好みのAVを探求している。
とはいえ、そのAV探求も厳しい練習を乗り越えてのものであり、決して遊んでいるわけではない。
余談ではあるが、ヤンキースの面々が松井に集まってきた時は涙線にグッと来た。


( ´_ゝ`)  流石 兄者  31歳 投手
社会人ドラフト2位

東京ビックバンズ所属の投手。
パワプロの能力を上げてほしくて練習を頑張った男。
無類の2次元オタクで、毒田に録り忘れたアニメを要求する。
ヴィッパーズに実弟が所属しているが、特に感慨深いものはない。
というかあっちが相手にしてくれない。

10 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 20:38:00.28 ID:FzwtV5eJ0
丶・ω・>  木村 拓也  37歳 内野手
ドラフト外入団

非常にショッキングな出来事がありました。
自分が物心ついたときから相手チームの嫌らしい選手として存在していた木村選手。
そんな方の突然の死には多くの方がそうであったように、驚きを隠せませんでした。
自分はこの物語を書くにあたって、自分なりに野球を敬愛し、また現実の野球に関係するすべての人に敬意を表しているつもりです。
野球を愛している。だから野球を知らない方に野球の素晴らしさを少しでもこの物語を通じて知ってもらいたい。
たかが学生の自分でもこんなことを身分不相応に思っているのだから、木村氏は自分の何千倍、何億倍もそんな気持ちを持っていたでしょう。
そんな人物が亡くなってしまったということに神様というものがいるのなら、それを恨みつつご冥福を申し上げたいと思います。


この物語には実在選手を基にしたキャラクターを登場させています。
木村氏もその中の一人で、亡くなる前から物語に登場させていました。
今回このような事態になり、これからも登場させるか非常に迷いました。
しかし上記にも書いたとおり、野球の楽しさを少しでも伝えるべく登場させることにしました。
木村氏をはじめとし、実在選手をモデルとしたキャラには自分なりの愛情と敬意を払っていることを理解していただければ幸いです。

11 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 20:41:58.81 ID:FzwtV5eJ0
(゚ι_゚*)  内川 聖一  26歳 内野手
高卒ドラフト2位

アクアリウムフィッシュ所属の一塁手。
チャンスに強く、高い打率と鋭い顎を誇り、2桁本塁打も打つ好打者。
長年Bクラスに沈んでいたアクアリウムを一転ダントツの首位に導いている功労者。
毒田とはアクアリウム時代に同期ということもあり仲がいい。
顎が発達しているためサ行がうまく発音できない。


(*゚∀゚)  津 雅之  26歳 捕手
大卒ドラフト3位

アクアリウムフィッシュ所属の捕手。
強肩強打を誇る若手急成長中のキャッチャー。
長年Bクラスに沈んでいたアクアリウムを一転ダントツの首位に導いている功労者。
毒田とはアクアリウム時代に確執があり、今も仲が悪い。
一時期「ギロチンのまさゆき」というあだ名がついたがなかったことになった。


以`゚益゚以  糸井 嘉男  28歳 外野手
大卒ドラフト1位

アクアリウムフィッシュ所属の外野手。
正直このAAの旬の時期を外してしまっていることは否めない。

12 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 20:46:03.36 ID:FzwtV5eJ0
( ><)  稚内 弘人  24歳 テレビアナウンサー

プロ野球番組の実況などを務める。
毎回毎回ちょっぴり頭にスパイスの効いた解説者をゲストに招いているため胃が痛い。


(´・ω・`)  諸本 信彦  39歳 解説者

元ニュー速ヴィッパーズ所属。
現役時代は3冠王をはじめとするタイトルを乱獲し、相手投手から恐れられた。
インコースイップスに陥り引退。現在は解説者。


('、`*川  伊藤 紅  26歳 記者

プロ野球雑誌「週刊プロ野球」の記者。
毒田のファンであり、ブス専。
一応この物語のメインヒロインではあるが最近もてあまし気味。


【あらすじ】
毒田は全国津々浦々の野球少年たちがうらやむプロ野球選手。
シーズン3割を何回も経験し、当然戦力として考えられていた毒田だが、突然スランプに陥る。
奮闘むなしく2軍に落ちた毒田。そこでゆっくり調子を取り戻すはずだった。
しかし某野球板の祭りによりふがいない成績の毒田がオールスターにファン選出。
実に2位に399,980,000票差をつけての1位だった。
野球板を見ない健全なファンから疑問の声を受けつつも毒田はオールスターに出場することとなる。


↓ 次から本編 ↓

13 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 20:50:05.08 ID:FzwtV5eJ0
(K*‘ー`)「いやあwwwwwwwwwおめでとうございますwwwwwwwww」

(*^ω^)「ねえwwwwwwwwこんな成績でオールスター出るのどんな気分ー? wwwwwwwww」

:('A`):

(=*゚ω゚)「打率俺と変わらんのにオールスターwww羨ましい限りwwwwwwwww」

J(*゚_ゝ゚)し「メチルアルコール一気しまーす!!」

(*^ω^)「一気! 一気!」

(K*‘ー`)「百姓一揆ー!!」

:('A`):


オールスター最終結果発表が終了した翌日。
俺は1軍で活躍している御方々に居酒屋に連れられた。
ちなみに俺はまだ絶賛2軍調整中である。


(K*‘ー`)「いやあ4億票は笑いましたwwwwwww」

(*^ω^)「ギガ組織票wwwwww」

:('A`):

15 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 20:53:50.89 ID:FzwtV5eJ0
なんとなく居心地が悪くなる。
目の前の生中を飲み干す。なんだか砂の味がした。
とりあえず店主を呼び、さほど呑みたくもない冷酒をオーダーする。
きっと運ばれてくる冷酒も砂の味がするだろう。


('A`)「……まあ、しょうがないじゃん?」

(K*‘ー`)「いやあ僕もそんな熱狂的ファンが欲しいwwwwww肘をwwww壊しても……応援してくれる…………」

(K‘ー`)「肘……」



('A`)

(K‘ー`)



('A`)「飲もうぜ……」

(K‘ー`)「うん」

16 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 20:57:54.51 ID:FzwtV5eJ0
流石に4億票というのはツールの使用が発覚し、無効となった。
しかし最終結果でも俺の1位は変わらず。どうやら俺の成績を勘違いした一般ファンが投票したらしい。
以下はその投票結果だ。

―――――
セントラル・リーグ 二塁手部門

1 毒田 剛 (ニュー速) 251,583
2 荒木 雅弘 (中日) 235,603
3 木村 拓也 (東京) 219,871
4 東出 今岡 (広島) 213,573
5 平野 顎 (大阪)  56,579
―――――


(#'A`)「しょうがねえだろうが! だって俺が頼んだんじゃないし! 頼んだんじゃないし!」

(*^ω^)「ちょっと煽られたからってすぐキレる男の人って(笑)」

(K*‘ー`)「(笑)」

(=*゚ω゚)「(笑)」

J( ゚_ゝ゚)し(しかばねのようだ)

(#゚A゚)「ああああああああ!! だっせらーい!!」


この生温かい目に耐えられなくなった俺はテーブルをひっくり返そうとした。
しかしこれを察知した店員がヘッドロックをかけてきたのでなんとかぶち切れずに済んだ。

17 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 21:01:37.90 ID:FzwtV5eJ0
)'A`( 「あの店員本気でヘッドロック決めすぎだろ…頭ひしゃげるかと思った」

( ^ω^)

)'A`( 「だいたい悪いのは俺じゃないじゃん。お前らじゃん。なんでお前ら無傷なの」

(K‘ー`)「すいません……」

)'A`( 「伊陽もダメだぞ? こんな先輩たちに毒されちゃ」

(=゚ω゚)「あ、はい」

)'A`( 「なあ? アーロン?」

J( ゚_ゝ゚)し (しかばねのようだ)

18 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 21:05:33.03 ID:FzwtV5eJ0
そんなこんなで(そんなこんなって便利な言葉だ)騒ぎもひと段落してきたころの話。
内藤が珍しく真剣な顔で話しかけてきた。


( ^ω^)「でも、ほんとにだいじょうぶかお?」

('A`)「なにがさ」

(K‘ー`)「僕らからしたらすごい面白いネタですけど……」

('A`)「よく思わない人もいる、ってか?」


俺の次点にとどまった荒木さんは今3割越えのアベレージと抜群の守備を誇っている。
荒木さん本人がどう思ってるかはともかく、ファンには俺を批判する声があったのも事実だった。


('A`)「しょうがないだろ、選ばれちまったもんは。精一杯やるしかねえよ」


おしぼりをぐちゃぐちゃいじりながら答える。
内藤や慶三はどう答えるか迷ったのか、あいまいに頷く。
やるしかない。それは自分に言い聞かせた言葉だったのかもしれない。

19 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 21:09:16.59 ID:FzwtV5eJ0
オールスターにファン選出された選手は辞退をすることができない。
もちろん例外もあるのだが、それはケガをしているとか逮捕されて釈放されないとかそういう特殊なケースだ。
俺には当てはまらない。不調とはいえ体は健康優良児、赤丸急上昇だ。
とすると俺は辞退ができない。ということで俺はオールスター当日、こんなとこに足を運んでいるのだ。


('A`)「はあ……」


大阪ジャガースの本拠地、大阪甲子園球場。
高校時代など、俺にとっても思い出深い場所だ。
天気は快晴、絶好の野球日和だ。夏の厳しい日差しがスタンドに突き刺さる。


从 ゚∀从「しんきくせーため息つくな。俺までげんなりすんだろ」


この人は俺と同じヴィッパーズ所属の高岡さん。
一昨年のシーズンは20勝を挙げた素晴らしい投手だ。

21 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 21:13:09.48 ID:FzwtV5eJ0
从 ゚∀从「そんな、しんきくせーため息聞いてるとな……あ」


ある人が近づくのを見て高岡さんがぷるぷる震えだす。
実は高岡さんはファン選出ではない。監督推薦での出場だ。
群雄割拠の先発部門。見事投票1位でファン選出されたのは……


从'ー'从「僕でーす☆」

从#゚∀从「渡辺ェ……」

('A`)


渡辺さん。高岡さんとは小学校からの腐れ縁らしく、お互いがお互いをライバル視している。
というわけで投票結果が出た後――高岡さんが渡辺さんに負けた結果――は高岡さんは荒れに荒れていた。
そんな鬼も避けて通る劫火に油をわざわざ注ぐ人がいた。渡辺さんである。


从'ー'从「ファン投票1位は先発しなきゃなんないんだよねー☆肩作らなきゃー☆」

从#゚∀从「OK、死にたいらしいな」

22 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 21:17:24.33 ID:FzwtV5eJ0
('A`)「……」

(;'A`)(ハッ、手持無沙汰だ)


唯一の話相手である高岡さんがバットを振り回しながら渡辺さんを追いかけて行ってしまった。
それをスタンドからファンが見てやんややんやと歓声を上げている。
その姿はさながらトムとジェリーだ。あれ、じゃあジェリーの高岡さんはトムの渡辺さんには敵わない……


:('A`):


高岡さんに心を読まれたら撲殺されそうな思いを飲み込み周囲を見回す。
もともと親交が深い人があまりいないのが災いし、周りにはほとんど話相手がいない。
しょうがない、便所でも行って飯でも食うか……そんなことを考えていた時である。

23 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 21:21:07.43 ID:FzwtV5eJ0
(*゚∀゚) 「毒田?」

('A`)「……」

(*゚∀゚) 「よう……久々じゃん」

('A`)「ああ」


今最も会いたくない人物と目が合ってしまった。
つかつかとこちらに歩いてくる男の眼にははっきりと軽蔑が見て取れた。


(*゚∀゚) 「あんなクソみてえな成績でもオールスター出れるんだな。コツ、教えてくれよ」

('A`)「……」


俺の古巣、アクアリウムフィッシュの正捕手。
内藤や俺と同級生だ。今回がオールスター初選出。
低迷を続けていたアクアリウムの今年の活躍の原動力。
強肩強打のプレイヤー・津が俺を見下ろしていた。

25 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 21:24:58.17 ID:FzwtV5eJ0
180cmの俺よりもでかいその恵まれた体格。
端正な甘いマスク。自信に満ち溢れたオーラ。
すべてが一流選手のものだ。そして、俺とはそりがあわない奴でもある。


(*゚∀゚) 「お前が出て行ってくれてさ、アクアリウムはずいぶん良くなったよ」

('A`)「……」

(*゚∀゚) 「なにしろ人気だけでレギュラーに居座り続ける辛気臭い奴がいなくなったからな、雰囲気が良くなった」

('A`)「否定はしない」

(*゚∀゚) 「そっちの監督は見る目あるよ。2軍落ちしてんだろ?」

('A`)「……」

(*゚∀゚) 「なのにファン選出? 4億票? ……お前、一生懸命やってる選手に恥ずかしいとか思わねえの?」

('A`)「……」

(*゚∀゚) 「辞退ができねえならその守備の時ロクに動かさねえ足とか折ればよかったんじゃねえの?」

(#'A`)「っ!」


受け流そうとした津の言葉だったが、無理だ。
俺の弱いところを的確についてくる津に俺は拳を握りしめた。

26 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 21:28:48.47 ID:FzwtV5eJ0
(゚ι_゚*) 「はいはい、つーもドックンも、言い争いやめる」


そう言って俺の腕を掴んできたのは異様に顎が長い男。
これまたアクアリウムの選手、内川聖一だ。俺と津の同級生でもある。


(*゚∀゚) 「止めんなよ、アゴ。俺はこいつに言いたいことが山ほどあんだ」

(゚ι_゚*) 「つっても、つーは打撃練習っしょ? はやく行かなきゃ」

(*゚∀゚) 「……わかったよ」


そして津は俺を一睨みして、バッティングケージへと歩いて行った。
その間ウッチー(内川のあだ名だ)はずっと俺の手を握ったままだ。

27 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 21:32:39.84 ID:FzwtV5eJ0
('A`)「……もういいだろ。離してくれよ、ウッチー」

(゚ι_゚*) 「ああ、ごめんごめん。ほい」


今まで掴まれていた腕を見ると赤黒く手の型が入っている。
さっきは興奮してて気づかなかったけど本気で掴みすぎだろ。痛いぞ。


(゚ι_゚*) 「ほんとお前らはアクアリウムの時からぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃと……」

('A`) 「俺じゃねえよ。あいつが俺に絡んでくるんだ」

(゚ι_゚*) 「つーも同じこと言ってたわ」

('A`) 「……」

28 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 21:37:09.19 ID:FzwtV5eJ0
自分で言うのもなんだが、俺は人をあまり嫌いにならないタイプだ。
交友関係が狭いのも確かにあるが、仲がいい奴がいないというわけではない。
基本的に誰とも喋るし、交友する。だが、津だけはどうしてもそれができなかった。


('A`) 「……でもさ」

(゚ι_゚*) 「ん?」

('A`) 「俺、津のことは嫌いじゃないんだよ。マジな話」


ベンチ前にいる俺たちのところまで津の打球音が聞こえてくる。
ウッチーがそれを聞いて何を考えているかは、俺には分からなかった。

29 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 21:41:11.52 ID:FzwtV5eJ0
―――4年前―――


俺と津は最初からあまり仲が良くなかった。
というのも今考えると悪いのは俺だ。
津が大卒ドラフトでアクアリウムに入団した時は俺はすでにプロ4年目。
その時にはもうレギュラーを張っていた俺。悪く言えばアクアリウム流の練習に染まっていた。
だらだらと続く、学生以下の練習に。


(*゚∀゚) 「おい…毒田」

('A`) 「ん?」


津がプロ入りして初めてとなる春季キャンプ。
初日だというのに報道陣もファンもまばらな光景は俺には見慣れた光景だったが、津には違った。
練習終り、明らかに狼狽した感じで津は俺に話しかけてきた。


(*゚∀゚) 「これで終わりか? なんつーか……短くねえか?」

('A`) 「んー……こんなもんだろ。むしろ今日は真面目にやってるほうじゃねえか?」

(*;゚∀゚) 「な……」


信じられない、という顔をしてそそくさと去っていく津。
俺はそれを見て、入団したての自分を思い出したものだった。
自分も最初はそうだったよ、なんて遠い目をしながら俺はそんな津を見ていた。

30 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 21:45:26.65 ID:FzwtV5eJ0
その次の日から津は居残り練習を開始した。
コーチも久々となるやる気のある選手に気を良くしたのか嬉々として付き合っていた。


('A`) 「かー、ようやるねえ」

(゚ι_゚*) 「……」


黙々とトスされるボールに向かってスイングを続ける津。
俺はそんなのを尻目にウッチーと寮に帰ろうとした。


(゚ι_゚*) 「……ドックン、しゃきに帰ってて?」

('A`) 「え?」


顎が発達しているためサ行がうまく発音できないウッチーが言う。
そして言うや否やウッチーは津とコーチのもとへ駆けて行ってしまった。


('A`) 「……なんでえ」


そして俺は1人で寮に戻る。
その夜、味を考えない量だけの夕食を食べ、自分のチームは報道されないキャンプ特集を見て、眠りに就いた。

31 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 21:49:40.79 ID:FzwtV5eJ0
その翌日からもダレ始めるチームとは対照的に、津とウッチーの練習量は増していった。
先輩方(年だけをとって若手の成長を阻害する方々の集まり)は手を抜く基礎練習もきっちりこなす。
そして連日の志願の居残り練。オーバーワークともとれる練習を確実にこなしていた。
俺もそれに加わることがあったなら、と今になって思う。
もし加わっていたら、今のアクアリウムの快進撃に俺も一枚噛めただろうか?

('A`)

そんな哀愁はさておき、キャンプもそんな感じで終了しその年のオープン戦である。
俺は前年打率2割9分を残しており、本格的に期待の若手とされていた。
そこに大学時代から強打で鳴らした津と高校からの素質が開花し始めたウッチー。


(#'A`) 「おらっ!」


俺が1番で出塁し、


(゚ι_゚*) 「いけっ!」


ウッチーが2番でつなぎ、


(*#゚∀゚) 「っしゃあ!」


3番の津がスタンドに叩きこむ。

32 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 21:53:33.72 ID:FzwtV5eJ0
各球団にとってオープン戦は基本的に調整の場である。
しかし若手にとってはそんなことは関係ない。いつだって全力でいかなければファームに転落するだけだ。
若手中心のオープン戦序盤はもちろん、各チームのエースが投げるような終盤戦になっても俺たち3人は機能した。
面白いように3人の成績は上がっていく。ファンからも今年は期待できるとの声が上がっていた。


〈# 。゜ё゜。〉 「yahhhhhhhh!!!」


オープン戦最終戦、守護神のドミンゴがしっかりと締め、試合終了。
この試合俺は2得点、ウッチーは1得点1打点、津は1本塁打3打点の活躍を見せた。
試合終了後、ミーティング室にベンチ入り全員が集まる。開幕1軍ロースターの発表をするためだ。


('A`) (残れるかな?)

(゚ι_゚*) (残れましゅよ……僕たち使わなかったら誰を使うの)

(*゚∀゚) (……)


ひそひそ話をする俺たちを咎めるように大矢監督が咳払いをする。
あわてて椅子に座りなおす。
そして、監督の口から開幕ロースターが発表される。

34 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 21:57:29.01 ID:FzwtV5eJ0
「最後に古木。――以上、28名だ」


監督の話が終わってからも、場は静寂に包まれていた。
みんな何も口には出さないが、考えていることは同じだろう。
オープン戦打率4割、本塁打5本、打点16を挙げた津のロースター漏れ。
誰も、何も言わなかった。


(;'A`) (まじかよ……)

(゚ι_゚;) (監督、ボケちゃったんじゃないんでしゅか…?)

(*゚∀゚) 「……」


俺とウッチーの2人は無事に開幕ロースター入り。
しかし津は俺たち2人よりもいい成績でオープン戦を切り抜けてきた。
いくら公式戦とオープン戦の違いがあるとはいえこれはあんまりな話ではなかろうか。

35 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 22:01:18.79 ID:FzwtV5eJ0
結局気まずい雰囲気の中で終了したミーティング。
津は終了の声を聞くと何も言わずに部屋から出て行ってしまった。
あわててそれを追いかける俺たち。


(゚ι_゚;) 「つー! 待ちなしゃいよ!」

(*゚∀゚) 「……んだよ」

(;'A`) 「あ、あの、つー、この度はなんというか……」

(*゚∀゚) 「お前がつー、って馴れ馴れしく言うんじゃねえよ。気持ちわりい」

('A`) 「……」

36 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 22:05:11.43 ID:FzwtV5eJ0
(*゚∀゚) 「なあ、ウッチー」

(゚ι_゚;) 「ん?」

(*゚∀゚) 「俺、あいつらよりも使えないかな?」


あいつら、というのは津の代わりに選出された2人の捕手のこと。
1人は長年アクアリウムの正捕手としてやってきた人。
しかしこの人も加齢による衰えは隠せず、チームとしては次の正捕手育成が急務とされている。
そしてもう1人は中堅の選手だが、打撃も守備も津には敵わないように見えた。
津も口にはしないながらもこの2人よりは自分は上にいると思っていたのかもしれない。


(;'A`) 「……」

(゚ι_゚;) 「……」

(*゚∀゚) 「……」


3人の間を、静寂が襲っていた。

37 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 22:09:03.96 ID:FzwtV5eJ0
そしてシーズンが始まっても、津の1軍昇格の話は一向になかった。
正捕手が打てなくても、控え捕手が守備でやらかしても、である。
当然そんな状態でチームが浮上するわけもなく、アクアリウムは早々に定位置となる最下位に沈んだ。


(゚ι_゚*) 「じゃあね、ドックン。がんばれ」

('A`) 「ああ……」


さらに、これまたベテラン一塁手の控えに甘んじていたウッチーが2軍降格。
若手と言えるメンバーで唯一レギュラーとなっているのは自分だけとなった。


('A`) 「……」


津が2軍でいい成績を残しても1軍にあがってこれないのは諸説あった。
キャンプの時に従事していたコーチと監督との確執。正捕手を寵愛している監督。
監督に津が生意気な口をきいていた、ということもあったらしい。

38 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 22:12:58.55 ID:FzwtV5eJ0
結局、そのシーズンに津とウッチーが上がってくることはなかった。
それに対し、俺は自己最多の出場数を記録し、レギュラーに一歩近づいたシーズンとなった。
そして俺は慢心した。アクアリウムのみならず、全球団の同期で最も早い出世。
どこかに津やウッチーを見下していた心があったのかもしれない。


(゚ι_゚*) 「……」

(*゚∀゚) 「……」


秋季キャンプに入っても相変わらずものすごい量の練習をこなす2人。
それに反比例するように、俺はやる気を無くし、練習量は減っていった。


('A`) (俺はあんなに練習しなくても結果残せるもんな……)


今考えると最低な思考だが、当時は本気でそう思っていた。
最低限の練習をこなし、(アクアリウムの最低限だ)寮に帰る日々が続いた。

40 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 22:16:56.76 ID:FzwtV5eJ0
ウッチーはともかく、めったに会話を交わさない津が俺のことをよく思っていないのは明らかだった。
津は俺なんかの練習量を軽く超える練習を積んでいたはずだ。
なのに1軍のレギュラーに定着したのは俺で、津は2軍からも這い出せない。


(*゚∀゚) 「……」

('A`) 「……そんなに睨みつけんじゃねえよ」

(*゚∀゚) 「……チッ」


キャンプの寮の廊下ですれ違う時もこんな感じだった。
他球団のことはよくわからないが、同級生でこんなに仲が悪いのはないんじゃないだろうか。
もちろん津の一方的な逆恨みであることは否めないのだが、俺に負い目が無いわけではない。
だから実際に拳を交える感じの喧嘩にはならなかった。お互い血の気が多いほうなのにな。

42 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 22:20:49.40 ID:FzwtV5eJ0
そしてケガしても不調でもやる気がなくても不動のセカンドとして君臨した俺。
そんな環境にいつまでも若々しく練習していられるほど俺は精神が強くなかった。
やる気がガンガン低下していく中、突きつけられたヴィッパーズへのトレード。


(^o^)y-・~ 「君、トレードね」

('A`) 「……」


それから内藤や諸本さんや茂等さんに触発され、練習量を増やした俺。
一応去年はチームの戦力になったような気がする。
今年はダメだが。もしかしたら、野球の神様とやらがアクアリウム時代のやる気の無さを今頃咎めたのかもな。
「調子にのんな」って。


(*゚∀゚) 「……」

43 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 22:24:38.94 ID:FzwtV5eJ0
―――現在―――


(゚ι_゚*) 「ドックン?」

('A`) 「あ、ああ」


少し昔を思い出してボーっとしていたのを訝しがったのだろう。
ウッチーが俺の顔を覗き込んでいた。


('A`) 「なんでもねえよ。大丈夫だ」


ふと見れば津がバッティング練習を終えてベンチ裏に引っ込むところだった。
津は俺を一瞥しただけで去って行ってしまった。
結局アクアリウム時代はロクに会話するでもなく終わってしまった俺たち。
少し俺にとっては寂しい向きもあるのだが、津にとってはどうでもいいのだろう。

44 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 22:28:29.62 ID:FzwtV5eJ0
('A`) 「そういやすごいよな、アクアリウムの勢いは」

(゚ι_゚*) 「いやいや、これからが勝負でしゅよ」


今までのオールスターならアクアリウムの選手が選出されることは稀だった。
出たとしても1人か2人。それが今年は8人。
ここにもアクアリウムの勢いが現れている。


('A`) 「でもアクアリウムは戦力入れ替えが激しかったからな……俺と知り合いはなかなかいないだろ」

(゚ι_゚*) 「そんなことないでしゅよ……あ、ちょうどいいところに佐々木しゃん」

('A`) 「佐々木さん?」

45 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 22:32:20.04 ID:FzwtV5eJ0
佐々木さんとは俺のトレード前にメジャーに行ってしまった守護神だ。
圧倒的な投球で最下位の球団に所属しながら最多セーブを獲得したこともある。
俺も佐々木さんと同僚の時はよく飲みに連れて行ってもらったものだ。
アクアリウムの現監督の熱烈なラブコールもあり、今年から日本球界に復帰した。


('A`) 「佐々木さんか。懐かしいな」

(゚ι_゚*) 「ドックンと佐々木しゃんは何年ぶりでしゅか?」

('A`) 「うーん、メジャーに行ってからは会ってないから…5年ぶりぐらいか」

(゚ι_゚*) 「そうでしゅか……あ、佐々木しゃーん! 毒田がいましゅよー!!」


その声を聞いた背番号22がピクリと反応する。
ウッチーの発した声だと確認すると大きな体躯をのっしのっしとこちらに歩いてきた。

46 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 22:36:24.59 ID:FzwtV5eJ0
(;'A`) (やべえ、久々だと佐々木さんはちょっと怖いかもしれん……)


佐々木さんはいい人である。
後輩の面倒見がよく、圧倒的な成績を残しても決して驕ることはなかった。
けれども肩幅のでかさもあって佐々木さんをよく知らない周囲の人からは恐れられていた。
見る人が見ればヤ○ザのようなひとである。5年経って性格まで凶暴になっていたらどうしよう……


佐々木「やあ、毒田」

(;'A`) 「ひゃい!」

47 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 22:40:23.05 ID:FzwtV5eJ0
  !. :./: : : : : : : : : : |: : : : : : : : : : : ,'.:.!    \:ヽ : :.、:.:.:!:.:.:.ヽ
 l: . .!. : : . : : . : : : :.!: : : : : : : : : : :,':./   _ゝ‐-: :|、:.!:.:.:.:.ヽ
 !. ..l. : . : : : : : : : : :|: : : : : : : : :l: イ;.!, -'"´    ト:.:.:!:l:..|:.:.:.:.:.:!
. !. . |: : : : : : : : : : : :ト; : : : : : : :.! l !イ        !ヽ |.!/:.:.:.:.:.:.:l
| : !: : : : : : :',: : : :, x-─ :.:...:.:l!.| レ    彡≠、k_ヾ:..r-、.:.:.:.:.!
. !: . .! : : : ヘ: : ,x '´: : ト、ヽ . :.:.:!レ    ー斗匕て',ラ゙:.:.:.:!., ヽ.:.:.:}
. l. . :.',: : : : :.X: :.ヘ-、:.::fヽ \_,'     "ヘっ_..::.ノ.! :.:.:.:k' /:.:.:.i
 !. : : ',: ヽ:.´.:ヽ、:.ヘ xz≠ミk           ゝ- ´ ! :.:.:.:.Y.:.:.:...ヘ
 l. : : : ヽ: ヽ、:.\X〈!ら::..:;.ぅ           |:.:.:.:.:.i.:.:.:.:.|.:ヽ
. ',. : : : : ` -`_t xz、 ヘヒr- ´    、        |. :.:.:.:.:.!.:.:.:.:ト、.:ヽ          「久しぶりだね」
.  ', : : : : : :.:.:.:.iヘしヽ           ,     ,.l :./:l./:.ィ:ハ.}  ー`
   ', : : : ヽ :.:.:.ヽ ニ >       ー "´     イi:.////ソ リ
   i : : : : ヽ: .:.:.::.:.:.:..:.:.ヽ、 _           / リ/iイ'
.   }: : :.ト: :、ヽ:.:\.:.:.:.:..:.:.:.:.、ニ ― t - '   メ
    | : :.ヽヽ:.ー 、_ヽ_Zー‐ ̄ー` i        ' ,
    l: ハ:トヘ  ̄             j        ` - _
   // ゙ー              /            ` - y`ーv、__
                    /               <: :/: : : : : 入
              /レ '  __    r ' ´ ̄    <´: :/: : : : : : : :.i
            _ ,ヘ: :.ラ      `          そ: / . . : : : : : : :ヽ
          ,´: : : :ヽ::}            _ ― :.: ̄i      . : : ヽ
          ,' : : : : : : y _ - ―..- ‐  ̄ ..::.....    {      . . : : i


(;゚A゚) 「誰だよ!!??」


えらい美人がそこにいた。

49 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 22:44:08.68 ID:FzwtV5eJ0
<イノ ゚ヮ゚ノトゝ 「むう、ひどいな。僕の顔を忘れるとは」

(;゚A゚) 「いや、全然違うでしょ!? なんですかそのラノベから出てきたような美少女っぷりは!?」


これはまさに分裂して驚愕してしまいそうな変身ぶりだ。
なんだこれは、佐々木さんはもっといかつい顔をしてしかるべきだ。


(゚ι_゚*) 「ドックン、なにをそんなにあわててるんでしゅか?」

(;゚A゚) 「何言ってんだバカアゴ! 貴様の目は節穴か!?」

<イノ ゚ヮ゚ノトゝ 「やれやれ、5年も離れてしまってはよくした後輩にもこんな仕打ちか」

(;゚A゚) 「だって実際に違うんだもん! なに!? もしかして俺が変なの!? SAN値下がっちゃった!?」

51 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 22:47:55.47 ID:FzwtV5eJ0
<イノ ゚ヮ゚ノトゝ 「ふーむ……もしかしたらあれかな……?」

(;゚A゚) 「え、なんですか……?」


―――佐々木:メジャーリーグ時代―――

アメリカ人 「ヘイ、SASAKI!」

佐々木 「なんだいBOBU?」

ボブ 「これを見てくれよ!」

佐々木 「うーん、なんだいこれは? BOBUのアラバマのクレーターに似ている奥さんの写真ならお断りだぜ?」

ボブ 「オウ、ジーザス! 今度SASAKIの家に胸一杯になるくらい俺のハニーの写真を送らせてもらおう」

佐々木 「それで? BOBUのアラバマのホームパイの自慢話じゃなけりゃいったいなんだい?」

52 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 22:52:39.73 ID:FzwtV5eJ0
ボブ 「オウ、本題を急ぎすぎるのはジャパニーズの悪い癖だぜ?」

佐々木 「おいおい、日本人を馬鹿にすると俺の暴れ馬が火を吹くぜ?」

ボブ 「おいおい、冗談はよしてくれよ! SASAKIは自分のを鏡で見たことがあるのかい? まるでリトルジョーじゃないか」

佐々木 「ボブ、そこらへんにしとけよ? 俺のイチモツにはまだオスとメスの区別を教えてないんだ」

ボブ 「HAHAHA!! 躾がなってないな!」

――――――


('A`) 「あの、本題に入ってもらっていいですか」

<イノ ゚ヮ゚ノトゝ 「む、これからが面白いのに……」

54 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 22:56:40.48 ID:FzwtV5eJ0
――――――

ボブ 「こいつを見てくれよ! もう3年も続編が発売されていないんだ! もし作者が目の前にいたらおイタをしてしまうぜ!」

佐々木 「……」

ボブ 「SASAKI?」

佐々木 (この挿絵の女の子、可愛いな……)

――――――


<イノ ゚ヮ゚ノトゝ 「そして、次の朝起きたらこうなってたんだ」

('A`) 「……」

<イノ ゚ヮ゚ノトゝ 「毒田?」

('A`) (冷静になってみると、可愛いな……夜の先発ローテーションに入れよう)

<イノ;゚ヮ゚ノトゝ 「な、なんだか寒気が……」

(゚ι_゚*) (つっこみどころが多すぎるでしゅよ……)

55 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 23:00:33.00 ID:FzwtV5eJ0
( ><)『全国1億人の野球ファンのみなさんこんばんは。

      本日はファン待望のオールスターゲームの模様を東京ビックドームからお伝えいたします。

      実況は稚内弘人、解説は元ニュー速ヴィッパーズ3冠王の諸本信彦さんです』

(´・ω・`)『どうも』

( ><)『諸本さんは現役時代実に8度のオールスター出場を果たしたわけですが、独特の雰囲気というのはあるのでしょうか?』

(´・ω・`)『お祭りのような雰囲気でしたよ。普段は敵同士がチームとしてやるわけですから。楽しかったですね』

( ><)『そうですか。今年のオールスターは快進撃を続けるアクアリウムフィッシュの選手が8名選出されています』

(´・ω・`)『お恥ずかしながら自分も今年のアクアリウムがこんなことになるとは思ってませんでした』

( ><)『現在アクアリウムは2位に12ゲーム差をつけての首位。シーズンの勢いをオールスターでも発揮するか』

(´・ω・`)『若いフレッシュな選手が多いですからねえ』

( ><)『そうですね……あ、スターティングメンバーの発表のようです』

56 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 23:05:13.29 ID:FzwtV5eJ0
先攻 パシフィック・リーグ スターティングメンバー (名前下の数字は打率・本塁打・打点)
1 中 福本 ( ̄(豊) ̄) 34 アクアリウム
.327 11 43

2 一 内川 (゚ι_゚*) 26 アクアリウム
.389 9 37

3 捕 津  (*゚∀゚) 26 アクアリウム
.279 20 54

4 二 R.ローズ 【“ ,З,“】 33 アクアリウム
.342 16 101

5 指 古木 [ `↓´] 27 アクアリウム
.276 25 36

6 左 糸井 以`゚益゚以 28 アクアリウム
.301 10 49

7 右 稲葉 [※ー、ー] 37 北海
.299 6 41

8 三 里山 ( бёб) 29 千葉
.274 9 39

9 遊 川崎 (θ_ゝθ) 31 博多
.269 2 31

P 投 大北 [ ー山ー] 29 アクアリウム
防1.95 14勝 2敗

58 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 23:08:59.18 ID:FzwtV5eJ0
( ><)『以上が先攻・パシフィックリーグのスターティングメンバーでした。

      アクアリウムはこの他にも中継ぎでドミンゴ・グスマン、抑えで佐々木主浩が選出されています』

(´・ω・`)『パリーグは今まさにアクアリウムの独壇場ですからね』

( ><)『そうですか。では、続いてはセントラル・リーグのスタメン発表です!』

59 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 23:12:52.88 ID:FzwtV5eJ0
(;'A`) 「あばばばばばばばばばば」

(;^Д^) 「毒田……大丈夫か?」


先ほどセ・リーグ監督の荒巻監督代行から自分は9番スタメンでいくと告げられた。
ファン選出された選手は必ずスタメン出場しないといけないのでそれについては仕方がない。
どうせ9番なら注目度も少なかろう。そう思っていた。


(;'A`) (後攻チームの9番なんてトリのほうで呼ばれるじゃねえか……)


そう、各リーグのそうそうたる成績の選手が紹介された後に打点5の俺。
なんちゅう恥さらしだ。まだ後ろに渡辺さんがいるのはいいが、野手のトリであることに変わりはない。

60 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 23:16:45.85 ID:FzwtV5eJ0
(;'A`) 「……」


ドームにはすでに4万人を超える大観衆。
それが俺を暖かく迎えてくれるかと言えば、もちろんNOだろう。


(; A ) 「俺が何したって言うんだよ……」


ぼそりとつぶやく。
宝さんは少し反応したが、聞こえないふりをしてくれたらしい。


(; A ) (ちくしょう……)


自分が、もどかしかった。

61 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 23:21:12.93 ID:FzwtV5eJ0
8番の村田さんがコールされ、心臓の鼓動は一層早くなる。
次に誰が来るのか観客も分かっているのだろう、すこしざわざわ感が増したように思える。


(;'A`) 「……」


選手名がコールされるとき、バックスクリーンにはその選手の今季の成績が表示される。
当然のことながらここに出ている選手はすべて一流の成績を残している。
ああ、自分のときだけ手違いで去年の成績でねえかなあ。


『9番』

(;'A`) 「!」


ああ、この感覚。何かに似てると思ったらあれだ。
小さい頃、悪いことをする。必死になって隠そうとするが子供が隠した悪事なんて簡単にばれる。
そして親に呼び出される。あの時の気まずい感覚。

63 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 23:25:11.69 ID:FzwtV5eJ0
『9番セカンド、毒田。背番号37。ニュー速ヴィッパーズ』


( ><)『不調に苦しむ人気野手! しかしそのバッティングセンスは誰もが認める……ん?』

(´・ω・`)『? 稚内くん、どうかした?』

( ><)『いや、その……歓声が無いな、と思いまして』

(´・ω・`)『……ほんとだ』


( A ) 「……」


ベンチから1塁ライン上に整列するため、小走りで駆ける。
罵声やヤジどころか、何もない。みんながみんな腫れものに触るような扱いしやがる。
オーロラビジョンには俺の輝かしい成績が堂々と映し出される。まったく笑えない。


彡 ムΘラ) 「毒田……大丈夫か?」


隣に立つ村田さんの声もよくわからなかった。
前を向いたら、本当に惨めな自分が見えるような気がして、ずっと下を向いていた。

64 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 23:29:09.18 ID:FzwtV5eJ0
『セントラル・リーグ、ピッチャー渡辺。背番号11。シベリアレールウェイズ』


从;'ー'从 「毒田……場をこんなに冷やしてくれちゃ困るな……おおう」


( ><)『えー……おお』

(´・ω・`)『おお、毒田の分まで歓声が上がっている感じですね』

( ><)『えー、歓声でドーム全体が響いています……

      渡辺選手の紹介ですね。分かっていても打てないスローカーブを武器に積み重ねた実績!

      人気・実力ともにナンバーワン! 渡辺稜!』

65 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 23:33:02.87 ID:FzwtV5eJ0
これで、はっきりした。
どこの誰が俺をこんな目にあわせたのかは知らないが、ここに俺は望まれてきたわけではない。
俺に投票した奴らだって面白半分だ。今頃滑稽な俺を見て笑っているんだろう。


( A ) 「……」


まさに針のむしろとでも言うべきオープニングセレモニーが終わり、後攻の俺たちは初回の守備につく。
胸が言いようもないなにかで一杯になって、ともすれば涙が出てきそうだ。


(;゚∀゚) 「毒田先輩!」

( A ) 「……?」

(;゚∀゚) 「試合、始まりますよ。今は辛いかもしれないですけど……」

( A ) 「悪い。黙っててくれないか」

(;゚∀゚) 「……はい」


ああ、心配してくれた後輩にまでこんな態度をとって。
もう、なんだか疲れた。これって俺が悪いのか?

66 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 23:37:01.34 ID:FzwtV5eJ0
後攻 セントラル・リーグ スターティングメンバー (名前下の数字は打率・本塁打・打点)
1 遊 長岡 ( ゚∀゚) 25 シベリア
.329 7 54

2 捕 盛岡 (´・_ゝ・`) 31 東京
.274 8 32

3 一 宝  ( ^Д^) 28 ニュー速
.314 18 60

4 中 松井 にしこり 35 東京
.283 14 50

5 左 小和田 (^o^) 33 シベリア
.309 12 46

6 指 ダイオード / ゚、。 / 32 大阪
.289 17 52

7 右 池沼 (^q^) 35 シベリア
.296 24 51

8 三 村田 彡 ムΘラ) 29 神奈川
.280 12 56

9 二 毒田 ('A`) 26 ニュー速
.241 2 5

P 投 渡辺 从'ー'从 30 シベリア
防2.74 10勝 4敗

67 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 23:41:11.39 ID:FzwtV5eJ0

試合はお祭り騒ぎのような様相で始まった。
渡辺さんは試合前の公言通り、スローカーブだけで勝負をする。
マスコミで囃したてられている「わかっていても打てないスローカーブ」を実行するためだ。


从#'ー'从 「やっ!!」


スピードガンでは100キロにも満たないことがあるスローカーブ。
しかし、それに福本さん・ウッチーと続いて凡退に倒れ、球場の盛り上がりも相当のものだ。


('A`) 「……」


俺は、それをセカンドの守備位置から見ていた。
どこか、テレビを見ているような感覚に陥りながら。

71 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 23:47:19.12 ID:FzwtV5eJ0
『3番キャッチャー、津。背番号2』


(*゚∀゚) 「……」


一、二度素振りを繰り返し左打席に入る。
左投手の渡辺と、左対決だ。


(*゚∀゚) (スローカーブのみだと……?)

从'ー'从 (……)

(´・_ゝ・`) (リードほとんどしなくていいから楽だな……)

(*゚∀゚) (そんなんで抑えられるほど……)


渡辺が投球動作に入る。投じるのはもちろん、スローカーブだ。
投げられたボールは大きな変化を伴う放物線を描いてホームへと飛んでいく。

72 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 23:51:07.07 ID:FzwtV5eJ0
(*#゚∀゚) (俺たちは甘くねえんだよ!!)

( ><)『打ったー!! スローカーブを津のバットが捉えるー!!』

从;'ー'从 「!」


鋭いスイングのバットに捉えられたボールは強烈な初速をもってはじき出される。
しかしそのボールの行方は――


(*#゚∀゚) 「チッ……!」

( ><) 『強烈な当たり!! しかしこれはセカンド正面……あーっと!!』

74 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/03(月) 23:57:40.91 ID:FzwtV5eJ0
強烈な打球。
そのあまりの速さに、一歩目の動作が遅れた。


(;'A`) 「うっ……」


グラブの先に当たったボールはポケットには入らず弾かれる。
転々と転がるボールを俺が拾った時には、津は一塁を駆け抜けていた。


(*゚∀゚) (……存在感無さすぎで守備の穴に気づかなかったよ)


(;'A`) 「すいません……」

从'ー'从 「ん、いいよいいよ。ちょっとパリーグの打者を舐めすぎたね」


記録はセカンド強襲のヒット。しかし実質的にはアウトの当たりだ。
渡辺さんは気にしていないようだが、俺は胃が痛い心地で一杯だった。
実際、ボールを弾いた時には「やはりか」のような空気がスタンドに漂っていた。


('A`) (もう、帰りたい……)

78 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/04(火) 00:01:26.94 ID:PnTSX3Z40
―― 一塁ベース上 ――


(*゚∀゚) 「宝さん……どうも初めまして。津です」

( ^Д^) 「? おう」

(*゚∀゚) 「ヴィッパーズのみなさんも大変ですね。あんなクソ守備のハンデ背負って」

( ^Д^) 「……」

(*゚∀゚) 「俺もあいつとチームメイトの時は苦労しましたよ。なんせ、やる気ないですからね、アイツ」

( ^Д^) 「……」

(*゚∀゚) 「今は2軍落ちでハンデは無いみたいですけど、戻ってきたらまた大変ですねー。お察ししますよ」

( ^Д^) 「おう」

(*゚∀゚) 「はい?」

( ^Д^) 「てめえが毒田をどう思おうとどうでもいいけどな……悪口ならよそでやれや、気分悪い」

(*゚∀゚) 「……それはそれは。失礼しました」


津はヘルメットのつばを握り、リードの体勢をとる。


(*゚∀゚) 「じゃあ、さっさと消えますよ」

81 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/04(火) 00:05:21.29 ID:PnTSX3Z40
( ><)『4番ローズへの第1球……あっと一塁ランナーの津がスタート!』


从;'ー'从 「!」

(;´・_ゝ・`) (初球スタートだと!?)


渡辺の放ったストレートを捕球し、2塁に投げる。
しかし、虚を突かれたバッテリーは津を止めることは叶わない。


『セーフ!!』


セカンドの毒田がタッチするも、結果はセーフ。
このプレイにはスタンドからも歓声が上がる。


(;´・_ゝ・`) (やられた……成績には関係ないが……虚を突かれたことは悔しいな)

82 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/04(火) 00:09:18.76 ID:PnTSX3Z40
(*゚∀゚) 「……」


津は歓声に右手を上げて応える。
その間俺に目を向けることはなかった。


('A`) 「……」


その回は渡辺さんがローズを抑えてスリーアウト。
盗塁を許したものの、エースらしいピッチングを見せた。

84 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/04(火) 00:13:05.80 ID:PnTSX3Z40
試合は進み3回の裏。
0−0でセントラル・リーグの攻撃。
打者は8番の村田さんだ。


『かっ飛ばせ―! ム・ラ・タ!』


オールスターらしく、各球団の応援団が一致団結し、1人の応援歌を奏でる。
観客も12球団のファンが入り混じっているので正確な応援はできないが、かっ飛ばせの部分だけは大合唱だ。


(゚ _ ゚#) 「シッ!」


先発の大北さんは2回で降板し、ピッチャーは2番手の須永さん。
トンベリの愛称で親しまれている。

85 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/04(火) 00:16:45.32 ID:PnTSX3Z40
彡;ムΘラ) 「ぐっ……」


スライダーをひっかけ、ショートゴロ。
川崎さんがしっかりと捕球・送球し、ワンアウト。


( ><) 『さあ、村田がショートゴロに倒れワンアウト。バッターはヴィッパーズの毒田を迎えます』


『9番セカンド、毒田。背番号37。ニュー速ヴィッパーズ』


(´・ω・`) 『ん……?』

( ><) 『ネクストバッターズサークルから毒田が打席に向かいますが……』

(;´・ω・`) 『球場の雰囲気が少しおかしいですね……』

86 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/04(火) 00:20:02.41 ID:PnTSX3Z40
(;'A`) 「……」


背中に嫌な感触の汗が流れる。
スクリーンに俺の景気の悪い顔と成績が映し出される。
しかし、汗の直接の原因はそれではなかった。


(*゚∀゚) 「……ふふっ」


キャッチャーマスクをかぶった津が笑う。
先ほどの村田さんの打席にあって、俺の打席にないもの。
どうした? みんな揃って楽器、壊れちまったか?


( A ) 「……」


歓声が、まったくなかった。

88 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/04(火) 00:23:28.09 ID:PnTSX3Z40
球場はざわざわと戸惑ったような声が上がる。
俺はそんな状況の中、打席に入り須永さんを見る。


('A`) 「っ……!」


須永さんの遥か遠く、レフトスタンド上段席。
先ほどまではなかった横断幕が設置されていた。


『毒田 そんな成績で出場するな 恥を知れ』

89 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/04(火) 00:26:49.14 ID:PnTSX3Z40
その横断幕が張られてからはもう、酷いものだった。
ペットボトルが次々とグラウンドに投げ込まれ、ブーイングが鳴り響く。
帰れコールは球場全体へと波及していく。


( A ) 「……っ」


唇を噛みしめる。
なんだ、大の大人がこんなことで恥ずかしい。
前を向け。打って、見返してやろう。

90 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/04(火) 00:30:14.68 ID:PnTSX3Z40
しかし、そんな状態で鋭いスイングができるわけもなく。
罵声の飛び交うスタジアムの中、俺は盛大にバットを3回振った。


『帰れ、このバカヤロウ!!』

『恥を知れ、恥を!!』

『なんだあの打点5wwwwwワロタwwwwww』


( A ) 「……」


打席からベンチに帰る時でも、罵声は飛び交う。
あのな、お前ら。ヤジって実は結構聞こえてるんだぞ?
球場にはご丁寧にも味方の応援団からアウトの時に流れる間抜けな曲の演奏があった。
まったく、至れり尽くせりだ。

93 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/04(火) 00:33:37.78 ID:PnTSX3Z40
ベンチの、なるべく端の、誰もいないところに座る。
もうあの横断幕ははがされ(俺の打席にまた出てくるのだろう)、長岡のヒッティングマーチが鳴り響く。
長岡に向けられる歓声が、ただ単純に羨ましかった。


('A`) (……)


と、同時にある思いも俺の心の中で噴出していた。
辛いとか、恥ずかしいとか、そんな想いよりも先に出たモノ。


( A ) 「選んだのは、お前らだろうがよ……!!」


その言葉は、長岡のヒットの歓声にかき消されて、消えた。

103 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/04(火) 00:54:24.24 ID:PnTSX3Z40
4回裏。0−0でワンアウト1塁2塁と先制のチャンス。
ピッチャーはファン選出のドミンゴ。
そしてバッターは絶賛応援ボイコットされ中の俺だ。


〈。 ゜ё゜。〉 「伝説作ってやんよ」

('A`) 「……」


1打席目と変わらず、歓声はストップし、代わりに罵声が飛び交う。
もちろん横断幕も大好評復活で、周りのファンはやんややんやの大騒ぎだ。
こんなんにも少し慣れてしまった自分が、少し嫌だ。


(*゚∀゚) 「……」

〈。;゜ё゜。〉 (え、こんな試合でそんなこと……いいのか? つー)

(*゚∀゚) (かまわねえ。こんな空気だ、こうした方が盛り上がるだろ)

105 さる ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/04(火) 00:57:55.66 ID:PnTSX3Z40
〈。゜ё゜。〉 (まあ、つーがそう言うなら……)


( ><)『さあバッター毒田に対して第一球……投げた!』


〈。#゜ё゜。〉 「yahh!」

(;'A`) 「!!」


ドミンゴの腕から放たれた150キロ近い球が、頭部めがけて一直線。
目の前を通過するブラッシュボール。お祭りに近いオールスターでは通常投げられることのない球だ。


(#'A`) 「てめえっ……!」

(*゚∀゚) 「……」

107 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/04(火) 01:01:24.83 ID:PnTSX3Z40
いくらなんでもこの場面でドミンゴが自発的にブラッシュを投げることは無いだろう。
ということは、これはキャッチャーである津の意思。


(*゚∀゚) 「……」

(#'A`) 「なんとか言え……っ!」


その時、気づいた。
割れんばかりの大歓声。今この時では、異端派は……俺なのだ。


(*゚∀゚) 「おわかり?」

('A`) 「……ああ。よくわかったよ」

109 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/04(火) 01:04:47.21 ID:PnTSX3Z40
〈。#゜ё゜。〉 「yah!」

(;'A`) 「!」


次の球はアウトコースのチェンジアップ。
少し中に入った甘い球だったが、さきほどのブラッシュがちらついた。
腰が引け、バットにボールは当たったが、力が伝わらない。


(;'A`) 「しまっ……」


簡単にひっかけてしまい、セカンドへ転々と転がる。
ローズが捕球し、2塁へ。ショートの川崎が1塁に転送する。


(;'A`) 「届けぇ!」


必死に走り、1塁にヘッドスライディングを試みる。
しかし、判定は簡単に下された。

110 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/04(火) 01:08:11.90 ID:PnTSX3Z40
『アウト!』


1塁審が元気よくコールする。
これで、ゲッツーが成立。罵声の嵐はさらにひどいものとなった。


〈。゜ё゜。〉 「イエーイ」

(*゚∀゚) 「ナイスピッチ」


ドミンゴと津がタッチを交わしながらベンチに下がる。
完全にしてやられた。挑発すれば俺が乗ってくることを完全に見越した配球だった。


('A`) 「……」

113 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/04(火) 01:11:39.25 ID:PnTSX3Z40
うつむきながらベンチに帰る。
なるべくセントラルの監督を務める荒巻代行と顔を合わせないようにする。


/ ,' 3 「毒田」


合わせないようにしていたが、向こうから話しかけられた。
無視するわけには当然いかないので、返事を返す。


('A`) 「はい」

/ ,' 3 「もう、いいかの?」


何がいいのか、と、そんなことを聞くほど愚かではなかった。
ふと見ると守備位置が同じの荒木さんがすでに準備を済ませていた。


('A`) 「……はい」


これ以外、なんて答えろっていうんだ。

117 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/04(火) 01:15:22.99 ID:PnTSX3Z40
『セントラル・リーグ、選手の交代をお知らせいたします。

セカンド、毒田に代わりまして、荒木。背番号2。中日ドラゴンフライズ』


このアナウンスに場内が沸く。
もはやベンチにいる必要も皆無なので、裏へと下がる。


('A`) 「……」


ムカついていた。ヴィッパーズに移籍して以来なりを潜めていた短気が再発したようだ。
気づいた時には、通路に置いてあった金属製のゴミ箱を思い切り蹴り飛ばしていた。
ガランガラン、と大きくやかましくゴミ箱は通路を滑って行く。


('A`) 「……」


ゴミが散乱する。一瞬掃除の人に悪いな、と思ったが自分で蹴ったゴミを自分で拾うのもしゃくだ。
結局、何かに当たったところで何かが変わるわけではない。
モノであれ――


('、`*川 「毒田さん。……お久しぶりです」


――人であれ。

120 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/04(火) 01:18:49.16 ID:PnTSX3Z40
('A`) 「……どうも」


いつもなら、いつもみたいに内藤や川島がいて、バカみたいに囃したててくれたらどんなに楽だろう。
こんな状態じゃなければ小躍りするような展開でも、今の俺にとっちゃすべてがマイナスにしかならない。


('、`*川 「……ゴミ、散らばっちゃってますね。拾います」

('A`) 「……よく、ここに入ってこれましたね」

('、`*川 「記者、ですから」

('A`) 「……」


本来ここは、記者であろうとテレビのレポーターであろうと入ってこれないはずのところだ。
どんな手を使って入ったのかは分からないが、追求するのも野暮というものだろう。

123 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/04(火) 01:22:10.53 ID:PnTSX3Z40
('A`) 「見てました? ……俺のプレー」

('、`*川 「……ええ」


少し、笑いが漏れる。
ああ、あんなに情けないところを見られてたのか。
今までなんとかして格好つけようとしてたのが滑稽だ。まるでお笑い草じゃないか。


('、`*川 「毒田さんらしく、なかったですね」

('A`) 「……俺らしく?」

('、`*川 「ええ。毒田さん、いつもと違って……」

('A`) 「あれが本当の俺ですよ」

124 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/04(火) 01:25:43.46 ID:PnTSX3Z40
('、`*川 「え?」


こんな反応をされるとは予想外だったのか、伊藤さんがゴミを拾う手を休め、俺を見る。
その顔は鳩に豆鉄砲撃ったら撃ち返された、みたいな顔だ。


('A`) 「あれが、本当の俺ですよ。ヴィッパーズに移籍してからができ過ぎだったんです。

    歓声を貰うことなんて稀で、いつも受けるのはヤジばっかで、人気もない。

    そんなんだから味方にも信頼されないし、ファンからも罵倒されるんですよ」


一気に一息で話したので、少しむせる。
伊藤さんは口を挟もうとするが、俺は気にせず話を続ける。


('A`) 「都合が好過ぎたんですよ。アクアリウムで散々味方の足引っ張っておいて、自分だけ移籍しようなんて。

    挙句に自分が不調でちょっと挑発されたらすぐこんな風にモノに当たるでしょう? 最低ですよ。

    こんな奴がオールスターに出ちゃいけなかったんです。大勢の野球ファンに申し訳ないですよ。

    ……あ、そうだ。記事組んでくれません? 俺が、こんな俺がオールスター出てすいませんでしたーみたいな記事」

130 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/04(火) 01:29:40.91 ID:PnTSX3Z40
俺の長台詞はそこで中断された。
正面を向いていた俺の顔はなぜか右を向いていた。
左ほほに、ピリッとした痛みがあった。


('、`*川 「……」


伊藤さんは、こちらをまっすぐに見つめていた。
その瞳には、少しだけだけど、涙も見えたような気がした。


('、`*川 「……なんで」

('A`) 「……」

('、`*川 「なんで、そんなこと言うんですか?」

131 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/04(火) 01:33:07.74 ID:PnTSX3Z40
('、`*川 「あなたは、私に夢をくれたのに。……なんで、自分でそんなこと言うんですか?」

('A`) 「……」


唇を噛みしめて、少し震えて。
ああ、俺なにしてんだろう。こんなだから、女性ファンがますます減るんじゃないかよ。


(;、;*川 「そんな……そんなこと言うなんて……プロ失格じゃないですか!!」

('A`) 「!」

(;、;*川 「私の知ってる毒田さんは……毒田さんは! 私の人生決めたぐらい輝いてて……

      『プロ』だったじゃないですか! 夢を与える、『プロフェッショナル』だったじゃないですか!」

('A`) 「……買いかぶりすぎですよ」

132 ◆5Ws6J0OZQE  2010/05/04(火) 01:36:24.89 ID:PnTSX3Z40
伊藤さんは、袖で涙をふき取る。
その目はまだ腫れぼったい。彼女にそんな顔をさせているのは、まぎれもなく俺だ。


('、`*川 「……わたし、毒田さんがプロに戻ってくれるまで、会いません」

('A`) 「……その方が、いいでしょうね」

('、`*川 「ええ。……失礼します」


かつ、かつとヒールの音が遠ざかっていく。
俺は下を向いていて、彼女の背中も見れなかった。


プロ? プロって、なんだ?
戻るも何も、俺にプロだった時期があるのか?


('A`) 「もう、なんだよ……」


ゴミが散らばっている床に倒れこむ。臭いが鼻につくが、今の俺にはお似合いじゃないか?
球場からは、誰かがホームランでも打ったのか、大歓声がこだまする。
本当、こんなところでなにしてんだろうな。俺。

――続く――


逆噴射J ◆lW31l/VtQc mirrorhenkan